伯爵の母リエルの天然伝説その2。
それは、数年前のある晴れた日のこと。
――――突然、やってきた。
「フェールちゃん。」
地方領の別邸に隠居した先代の妻―つまり伯爵の実母なのだが-リエル・C・グエスが突然訪ねてきた。
訪ねてきたといっても、占い師の力で屋敷の東館のとある扉を別邸と繋げているので、一瞬のことなのだが・・・・・
外見年齢30前後(実年齢51歳)の伯爵の実母リエルは、占い師のくつろぐソファーの前にペタンッと座り込んだ。
そして、占い師を上目遣いで見上げる姿は、本気で幼い。
彼女がまだ、こちらに住んでいるころ、占い師の力で永遠に若さを保つと女たちが屋敷に押し寄せてきた原因の一つだ。
「――――・・・何でしょうか、リエル様?」
若干、占い師の顔に引きつった笑みが浮かぶ。
この人がこうやって占い師を見るときは、確実に厄介ごとを持ち込んでくるか、無茶苦茶なお願いをしてくる。
長い付き合いで、占い師は悟っていた。
「もぅ。リエル、って呼んでって、様なんてつけないで言ったでしょ、フェールちゃん!」
プクッと頬を膨らませたリエル。
占い師を ちゃん付けにした上に、こんな事をいえるのは彼女くらいだろう・・・
「はい、はい。で、何なんです、一体?」
「あのね~フェールちゃん。この子飼っても良い?」
リエルが可愛らしく首を傾げ、占い師の目の前に差し出したのは、3つの頭をもつ子犬。
・・・・占い師は思わず頭を抱えてしまった。
「・・・・・どうして・・・・ハァ」
「あのね、森の中でマンドラゴラちゃんたちと鬼ごっことかして遊んでたら、落ちてたの。
パパが、フェールちゃんが良いって言ったら飼っても良いよ~って言うの。だから、お願い、フェールちゃん。」
ウルウルと潤ませた瞳で占い師を見上げるリエル。
しつこい様だが実年齢51歳の一児の母。
というより、まず、普通はマンドラゴラと鬼ごっこだの何だので遊ばない。
その声を聞けば死ぬという魂を持つ植物こそがマンドラゴラ。
しかし、何故かしらないが別邸で先代が栽培するそれらは、抜かれても鳴きもしない上に、先代夫婦に懐く。遊ぶ。家事を手伝う(というか主にやる)。番犬になる。
長―――――い年月生きてきた占い師でさえ、上級者でさえ、その道のプロでさえ扱いを慎重にする危険物であるマンドラゴラがそんなことをするなんて聞いたことも見たこともなかった。
「ほら、フェールちゃん。可愛いでしょう?パパも可愛いって言ってくれたの。」
リエルは、占い師の顔の間近にまで3つの頭の子犬を差し出してくる。
マンドラゴラも骸骨たちも、この地獄の番犬という異名をもつ高位モンスター ケルベロス(子供とはいえ・・・)も、「かわいい」の一言で終わらせてしまう天然夫婦。
何度 あの占い師が胃を痛めたことか・・・・・
「・・・ハァ・・わかりました。ちゃんと躾けてくださいね。」
「わ~い!ありがとう、フェールちゃん。大丈夫。もう、「お座り」と「お手」はできるようになったもの。ねぇ、ポチちゃん、シロちゃん、タマちゃん。」
「「「ワン」」」
「・・・・・・・・はぁ・・・」
こうして、グエス地方領の別邸に、とっても優秀な番犬ができたという。
別邸に侵入するものは、いなくなった。
そして、「あの屋敷には、地獄の番犬がいる」という噂が流れ、ますます占い師の名は轟いたとか・・・
「だから、私は何もしてないって!!!!」
と叫ぶ占い師がいたそうな。
「だから、あの人たちは苦手なのよ~!!!」
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